ブランチ
月が自治区として認められ、国家として否定されていた60年前。
2180年、月自治区が望んだ月面都市独立決議案は国連総会にて否決された。
この決定を下すにあたって引用されたのは宇宙条約と月条約である。
宇宙条約第2条
「月その他の天体を含む宇宙空間は(中略)国家による取得の対象とはならない。」及び、
月条約第11条第2項
「月は、国家主権の主張、使用若しくは占拠又はその他いかなる手段によっても国家の専有にならない。」がとりあげられた。
月自治区代表団は、
「独立という極めて重要な問題が、200年前から殆ど改正されていない条約を盾に、
踏みにじられた事は非常に残念である」
と言い残し地球を去った。
それから4年、第一次月戦争が勃発する。地球の9割を焦土に変えた戦争から60年、争いは未だ続いている・・・。
草一つない荒野、月の住人はそんな土地で生きている。
宇宙は狭い。青くて丸い娑婆はいつも頭上で煌めき、地球奪回という夢を忘れさせない。
時は第二次月戦争末期、人類が月に移住してより約200年後の話である。
2242年9月某日朝、晴れの海上空約700m。6つのフローターが、地面に大きな影を滑らせながら進んでいる。
ローマ・チームのリーダー、ジェシカ・モルソンは
画面地図にある目的地と現在地の光点が重なりつつあるのを確認し、回線を開いた。
「ローマ・チーム、確認してる?ローマ4、減速しなさい。作業機の充電チェックして。降ろすわよ」
昔はアルファ、ブラボーといった言葉で表されていたアルファベットも、今では全てが地球の都市に由来するものになっている。
「ローマ2、スタンバイ」
「ローマ3から4、スタンバイ」
「ローマ4から6、スタンバイ」
「了解、では散開して採掘をはじめる。ノルマは8000トン」
誰かが文句言うわね、この量じゃ・・・。ジェシカは密かに微笑んだ。確かに、今日の採掘量は多すぎた。
普段の3倍に相当する量であるのに、いつも上層部はエネルギーを消費しすぎるなと言う。すぐに返事が返ってきた。
「ローマ1、今日のノルマは正気の・・・」
「文句ある?」
「・・・了承」
間もなくして、6つのフローターは扇形に散開していった。
ホットケーキの形をしたそれらは、徐々に速度を落とし、
やがてふよふよと浮かんでいるように見えると、空中にピタリと静止した。
「作業機降ろせ」
彼女がそう指示すると、遠くに見える他のフローターらも次々に作業機を切り離した。
月の低重力の中、ゆっくり、音もなく着地する。
三日月型の地球が綺麗だった。「異常なし」グリーンの表示が画面におどった。
さて、これからどうするか、ね・・・。少し悩んで、すぐに決断を下した。処理炉の速度を上げる以外に方法がないからだ。
フローターは燃料に水素を使う。これから採掘、処理する月の砂<レゴリス>より抽出できる燃料はヘリウム3だけ。
水素も採れる事は採れるが、あまりにも微量で足しにならない。
コンピューターが個人間通信をいつもより多くとらえている。
私に知られず愚痴を言えると思ってるのかしら?
彼女には部下たちがどんな会話をしているか、聞かずとも手に取るようにわかった。
というのも、彼女自身同じ目にあっていたからだ。かつて自分が誰かの部下であった頃、上の悪口を日常的に言っていた。
しばらくして自分が昇進し、チームを任され、隊長機のシステムをチェックしているうち、
このとんでもないピーピングプログラムを発見するのだ。
そして、自分達の軽挙を見逃してくれた上司に感謝する、という一種の伝統である。
もはやこのプログラムがいつ作られたのかすら分からないが、それは常に彼女の画面の片隅にある。
作業を始めて2時間ほどした頃、画面右上に緊急メッセージが現れた。
メッセージを見た彼女は、すぐさま作業機をフローターへ引き上げさせた。危険が近付いている。
「ローマ1、聞こえますか。こっちでも入電してるんですが・・・」
「ローマ2、見ているわ。隕石アラートね?どうも私に近いようだわ、西に3キロ、
念のためあなたも作業機を引き上げて衝撃に備えて。他は大丈夫だと思うから」
「了解、ローマ1。その後は?」
「隕石を調査する。窒素でもあったらノルマ減らしてもらえるかもしれないでしょ?」
苦笑する声が聞こえる。声が止むと、かわりに低い震動が長く月を揺らした。
震動が止んでから、ジェシカは隕石の落下した方向へ機首を向け、
鋼鉄のホットケーキを分速20キロにまで加速し、すぐ落下地点へ辿り着いた。
隕石は小さなクレーターを作っており、落ちたてのそれらしく粉塵をまきあげていた。
作業機を切り離し、構造解析を始める。
画面中央に隕石のデータが表示される間も、片隅では仲間達の他愛無い話が流され続けていた。
「鉄・・・ニッケル・・・使えないわね」
彼女の文句にめげず、作業機は情報を送り続けた。
片ひじをつきながらデータを見ていた彼女だが、突然目を見開き、画面に食い入った。
「鉄の・・・ニッケルの含量が違う。二重構造?中に何か入ってる?」
急いで命令を変更する。作業機が隕石の上部をレーザーカッターで焼き切る。
スローモーションで落ちるそれをはたき落とすと、内部の詳細もはっきりと分かった。
断熱材が外殻の内側に仕込まれているのを見た時、彼女はこのうえない戦慄に震えた。
これは人工物だ!人工の隕石が、何らかの目的でここに投下された・・・そうとしか考えられない。そして、これは何かを入れてる?
それを知ってしまっていいのだろうか?そう考えた時にはもう手遅れだった。
働き物の作業機は既に内部の調査も済ませ、その情報ははっきり画面に表示されていた。
鮮明な映像も映し出されていた。人工物どころではない、大型の兵器がそこにあった。
「ガンポッド・・・」
驚愕と後悔の念が押し寄せる刹那、ピーピングプログラムが突然落ちた。
「えっ?」
と驚く間もなく、緊急メッセージが画面一杯に表示される。
「ただちにシステムを停止し、こちらの指示に従え。我々はセレーネ防衛軍である」
引用
【僕らの】アインハンダーStage.6【秘密基地】
http://game4.2ch.net/test/read.cgi/famicom/1056546353/l50
より
23 43 44 45 46 47 48氏 作
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