鉄道警備隊の負傷兵



「・・・肉体と内陽に安らぎを、世を去りて太陽の下へと向かわん・・・」

 声が、聞こえる。すぐそばだ。聞き覚えがある…そうだ、親父が病気で死んだ時だ。
 ゾンネの神父が「内陽が無事太陽の下へと行けるように」と何やらボソボソ言っていた時の言葉とまるで一緒だ。
 おかしいな?葬式があったのはもう何年も前なのに…。

「何やってんの、磁石だよ磁石!早く持ってこないと失明するぞ!」

 失明、と誰かが叫んで、今自分が何も見えてないことに気付く。
 寝起きで目がぼやけることがある、しかし、これはおかしい。全くの暗闇で何も見えない。
 まさか…俺のことか?
 不意に目の周りが疼きだした。まるで、眼球をかすめながら頭の奥からモノが引きずり出されてるみたいだ。

「痛い!」

 と大声で叫ぶ。

「あぁ、なんだ意識があったのか。今から爆発のとき目の周りに入り込んだ鉄屑を除去する。
 一応麻酔を打つが、痛いから覚悟してくれ」

──麻酔なしでやる気だったのか、このクソ医者!

「え?彼は死なないのか、じゃあ私はこれで失礼させてもらうよ」

 神父の読経が止んだ。俺はというと、注射針が刺さる痛みと眼球がえぐり取られるかのような痛みで手足をバタバタさせていた。
 すぐに手足と頭を押さえつけられ、地獄の苦しみに堪えるはめになった。
 痛い、痛い、死んでしまいそうだ!普段からよく使う「死にそう」の言葉も激痛とともにあっては異常なリアルさを生む。
 死の恐怖がすぐそばへやってきた俺は、普段の俺では想像もつかないような汚い言葉を次々と口走った。
 その時の事を、後に医者はこう教えてくれた。
 君は錯乱して意味不明な事を口走っていた、そして、意識を失う直前、かすかに、しかしはっきりとこう言ったのだと。

「・・・アインハンダー・・・」

 そして俺は気絶した。



 ・・・目・・・目・・・目・・・。
 いくつもの目が俺を睨んでいる。どの目も赤く、そして鋭い。
 ずらりと並んだ帝国シンボル付きの歩行戦車。彼らは俺を呼んでいる・・・奴を倒せと呼んでいる。
 乗ろうと考えた時には、俺の体は戦車の中へ入っていた。
 まるで俺の心の一部であるかのように、シュタールは素直に俺を受け入れた。
 なんだ、いい子じゃないか。
 俺は操縦桿に手を触れた。刹那、操縦桿と手の境界は曖昧になり、俺の手は機械の中へと溶けていく。

 ・・・あたたかい。小刻みな駆動音が心音とシンクロする。
 油圧から整備の具合、回路を流れる電流までもが自分のもののように感じられた。
 この時、俺は30mm機関銃の事を──多少恥ずかしい表現ではあるが──俺のイチモツのように思った。

「そうだ、俺はあの時シュタールと共にあった」

 あの時、列車の上で。ほんの数メートル上空を、機械の『手』がすり抜けようとしたあの瞬間。
 次々と潰される友軍、死者を辱めるかのごとく武器をかっさらっていく『手』、
 俺はなんとしてでも奴に一矢報いなければならなかった。
 だが方法がなかった。どうやって、どうやって、すれば、殺せるんだ?あいつを・・・。
「教えてくれ・・・」
 そう念じた時、眼前が白く輝いた。暗闇の奥の光明、希望の光・・・、まるで、俺の求める答えがそこにあるかのように。

 教えてくれ!




「意識が戻りました」

 ぼんやりと光を感じる。自分はどこかに寝かされて、周りに何人か人がいる。
 白い、刺すような鋭い光が頭上で輝いて、眩しさのあまり手をかざした。

「おはよう、君が気絶してからもう二日経っている。あ、私は目の治療をさせてもらった医者の・・・、
 いや、警備隊本部長がお見えになられている。私はこれで失礼するよ」

 医者はどこかへ行ってしまった。・・・あの麻酔無しで手術をしようとしたヤブ医者か?
 いや、もうそんなことはどうでもいい。あの状況で生き残れたのは奇跡だった。
 入れ替わりに誰かが近寄ってきた。背が高く、こちらを覗き込みライトの光を遮った。
 頭がやや薄い・・・、中年男性、軍服は正装して立派なものだ、何故?

「おめでとう、君はレッドバロンに匹敵する英雄だ!寝たままで悪いが、賞状を受け取ってもらえないかね?」

「はい?」

「君はあの悪魔を──あの戦斗機を撃ち落としたんだよ?
 一級鉄十字勲章ものの戦果だ、何せここ最近あやつらに悩まされっぱなしだったからな・・・」

 俺が、一体どうやって?
 俺は本部長を見たまましばし呆然と、言葉を忘れ何も言えないままになった。
 彼は賞状の入った筒から勲章を取り出すと、俺の首にかけて敬礼し、何事もなかったかのように去っていった。
 賞状は俺のベッドにねじこまれた。

 英雄の誕生である。




 何百といる戦車乗りの一人が、知らず知らずのうちに最強の敵を撃墜し、賞状と勲章までもが送られた。
 ベッドに横たわる彼は、今までの自分とどう変わったのか分からず、ただ事の大きさに震えていた。

「彼をヒーローにしましょう」

 本部長が第三鉄道警備隊長へ言った。

「奴らは必ず死ぬ、過酷な戦闘を何日も続けるのだからな。
 だが死ぬとしても地面に激突するか何かで、『撃墜』した試しは殆どない。 陸軍で撃墜した『英雄』は相討ちでな。
 彼には・・・ゾードムの代表者になってもらう。あの戦斗機も倒せるのだという、自信を全軍に広めるのだ!」

 隊長は両手を広げて、

「いいでしょう。なにせ陸軍の方では二個師団がやられたそうですからな。我々は感謝しなければいけないところです、彼に」

 二人は声を殺して笑った。しかし、後に二個師団壊滅ではなく一個師団壊滅である事が明らかになる。
 戦斗機降下による混乱と絶望が被害を拡大解釈させたのだ。

「上の方からはあの戦斗機の通称と、撃墜者の名前を伝えるよう催促されている。通称は彼に決めてもらおう。
 ・・・ところで、あの男はなんというんだ?賞状の名前欄は省いたんだが」

「私も知らない。記録が紛失してるんだ」

「よし、じゃあ私が勝手に決めよう。彼に会った時、私は『レッドバロンに匹敵する』と言った。
 リヒトフォーヘン、これが新しい名前だ」

 隊長はまた手を広げて「お好きに」と示した。
 こうして、彼の夢に現れた「迫り来る一本の腕」は「アインハンダー」と呼ばれるようになり、
 彼自身は知らぬまに「マンフリート・フォン・リヒトフォーヘン」と改名された。
 当初は「アインヘンデル」という名で広報部へ送られたが、月かぶれの学士が「これでは格好悪い」と勝手に名称を変更した。
 こうして、第二次月戦争の悪魔アインハンダーと偽の英雄リヒトフォーフェンが名付けられたのである。







引用
第5スレ 02/05/24 〜 02/08/20
アインハンダ−を熱く語るスレ
http://game4.2ch.net/test/read.cgi/famicom/1047697409/l50
より
321-322・380-381・403-406氏 作



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